~感染経路・症状・検査・治療法~
まずはじめに、淋菌感染症(gonorrhoeae)の名前の由来について雑談。
・尿道から流れ出る膿から、gono(精液)、rhei(流れる)からの合成語。
・「淋」は雨の林の中で木々の葉からポタポタと雨がしたたり落ちるイメージを表現した漢字。
淋菌性尿道炎は尿道の強い炎症のために尿道が狭くなり、痛みと同時に尿の勢いが低下することで、排尿がポタポタと出ることからも病名と使用されたと言われています。
【感染経路】
淋菌は弱い箘であるため、粘膜から離れると数時間で感染性を失い、日光や乾燥、温度変化、消毒剤で簡単に死滅します。
そのため、性感染症として人から人へ感染するのが主な感染経路となります。
ただし、分娩時に産道感染で母子感染を起こすことはあります。その場合、新生児の両眼が侵されることが多く、早期治療を行わないと失明する恐れがあります。
また、オーラルセックスの増加により淋菌が咽頭から検出される症例が増加、性器淋菌感染症患者の10~30%に咽頭からも淋菌が検出されています。
咽頭感染は性器感染よりも無症状や症状があっても乏しいことが多く、近年ではコロナの蔓延もあり喉の違和感があっても性感染症ではないと放置する方が増えており、そうすると知らず知らずの内に無治療のまま周囲へ感染を拡げてしまうのです。
【症状・潜伏期間】
男性
感染後2~7日の潜伏期間
・排尿時や勃起時に激しい痛みを伴う
・尿道から膿が出る
・尿道から粘液性の分泌物が出る
※近年男性でも症例に典型的ではなく、無症状の場合もある
※治療せず放置することで、淋菌性精巣上体炎、無精子症、全身性の箘血症である播種性淋菌感染症(DGI)を発症するリスクがあります。
女性
男性と比較して無症状例が多いため、潜伏期間は判然としない。
・おりものの増加
・不正出血
・粘液性のある膿様の分泌物
※無症状例が圧倒的に多い
※治療せず放置することで、骨盤内炎症性疾患(PID)、肝周囲炎、子宮外妊娠、不妊症、全身性の箘血症である播種性淋菌感染症(DGI)を発症するリスクがあります。
【検査方法】
男性 尿、うがいの検査
女性 腟へスワブを挿入、うがいの検査
病院、クリニックで検査をする場合
メリット
・直接医師へ相談ができる
・病院、クリニック先により即日検査結果が出て治療もできる
・場合によっては保険診療が適応となる
デメリット
・直接出向かないといけない
検査キットで検査をする場合
メリット
・周りの目が気にならない
・診療、待合時間がない
・自宅で自分の空いた時間に検査ができる
デメリット
・症状に対しての相談ができない
・検査キットを依頼してから届くまでに日数がかかる
・検査キットを送り返してからの結果なので、結果に時間がかかる
・検査の結果で陽性の場合、病院を探さないといけない
【治療方法】
近年、淋菌の抗菌剤耐性化は顕著であり、多剤耐性化は進んでいます。
そのため、ペニシリン系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系、セファロスポリン系は有効性が期待出来なくなりました。
したがって、現在保険適用を有し確実に有効な薬剤は、
セフトリアキソン(ロセフィン)と
スペクチノマイシン(トロビシン)の2剤のみとなってしまいました。
しかし、2009年にセフトリアキソン耐性箘が世界で初めて日本で確認され、フランスやスペインでも報告されましたが、日本含めセフトリアキソン耐性箘の蔓延は現在も認めていないようです。
アレルギー等の理由でこの2剤が使えない場合には、
ジスロマックSR成人用ドライシロップ2gが、淋菌性尿道炎、淋菌性子宮頸管炎に適応症を持ち、点滴静注用アジスロマイシン水和物が淋菌性骨盤内炎症性疾患(PID)に対して適応症を取得しています。
また、淋菌感染症の20~30%はクラミジア感染を合併しているため、淋菌と共にクラミジア感染症の検査も推奨されています。
【予防法】
1、ドキシペップ
アメリカでは梅毒、クラミジア、淋菌などの性感染症患者が急増しており、この問題を解決するために2023年10月、アメリカのCDC(疾病対策予防センター)は、
「Doxy PEP[ドキシ ペップ]」という、新しい性感染症予防の方法についてガイドラインを制定、現在専門家の意見を集約している段階であるため、取り扱いしている病院、クリニックはまだ数少ないのが現状です。
ドキシペップとは?
性行為から72時間以内に抗菌薬であるドキシサイクリン(ビブラマイシン)を200mg服用することで、
梅毒=87%、クラミジア=88%台、淋菌=55%
感染予防が出来るというものです。
懸念される問題点としては、
抗菌薬が効かない耐性箘が出現する可能性ですが、今のところまだ耐性箘の報告は上がってきておりません。
ドキシペップは下記項目に当てはまる方に推奨されています。
・梅毒やクラミジア、淋病、その他性感染症にかかったことがある方
・複数のセックスパートナーがいる方
・CSW(風俗業界、AV業界等で働く方)の方など、特に感染する機会の多い方
2、淋病予防ワクチン
以前より流通している、髄膜炎箘B型ワクチン(ベクセロ)です。
淋病と髄膜炎箘B型の構造が似ており、2004年頃からフランスの研究調査によりワクチンにより淋病の感染率を51%予防出来ると報告されています。
まだ効果がどの位持続するか等の詳細が明確ではないものの、オーストラリアで行われたモデルでは3年毎のbooster接種(単回接種)が望ましいと報告があがりました。
いずれにしても従来通り、基本的には性的接触時にはコンドームを必ず装着することで性器への感染は予防出来ると言えるでしょう。
ただし、コンドームの劣化や破損による粘膜接触の可能性も起こりうるので、定期的な検査を行うことで早期診断、治療を行うことが重要となります。