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オンライン診療の変遷

性感染症情報コラム
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オンライン診療が実現するまでの歴史について

物理的距離の制約から、離島や医療施設の無い僻地、専門医の居ない地域などへの医療提供が難しいという問題がありました。


 医師には、医師法という、医師全般の職務・資格などを規定する日本の法律があります。医師法第二十条により、無診察の治療は行ってはならないと規定があります。診察は対面診療により十分な医学的評価(診断など)を行うことを基本としており遠隔診療では十分な医学的評価が行えないとの解釈がなされていました。

 「第二十条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」

医師法第二十条

医療を必要とする人に適切な医療を提供することの課題解決の一つとして情報通信機器を用いての診療を実現するため、国や関係省庁や団体等の様々な方達が安全性やリスクを議論し、たゆみない努力によって、私たちが安全安心に利用できる環境が実現できています。その歴史について記載します。

オンライン診療が実現するまで

  • 1997年
    オンライン診療のはじまり

    「遠隔診療」という情報通信機器を用いての診療が通達されました。
     「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」という厚生省(当時)の通達において、「遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない。」と明示されました。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/tushinki01.pdf

    厚生省健康政策局

    この通達により、一定の条件下で遠隔診療も診察であることが認められましたが、厳しい地理的条件および継続的な慢性疾患に限定されたうえ、診療報酬上の点数が定められなかったため(自由診療のみ許容)、広く普及することはありませんでした。離島や医療施設の無い僻地、特定の慢性疾患でかつ初診以外に対してのみ特別に認可されているものでした。この当時、テレビ会議やビデオチャットなどのソフトは一般的でありませんでしたし、ネットワークの帯域も動画を遅延なく送受信することはできませんでした。通信するための機器も、パソコンや専用情報機器でないと対応できませんでした。また操作するにしても高度な情報機器の知識を必要としました。そのため離島の患者さんや医療施設のない僻地の患者さんの情報通信機器を利用した医療へのアクセスのニーズはあっても、気軽に利用できる代物ではなく離島や僻地限定であったため普及には至りませんでした。その後、忘れ去られたかのように長い間、遠隔診療の進展はありませんでした。

  • 2015年6月30日
    遠隔診療の活用に関しての議論の活発化

    閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015~経済再生なくして財政健全化なし~」(骨太の方針2015)に「遠隔医療の推進」が盛り込まれたことにより、遠隔診療に大きな進展が起きました。

    経済財政運営と改革の基本方針2015 ~経済再生なくして財政健全化なし~
    https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2015/decision0630.html

    内閣府
  • 2015年8月10日
    事実上の遠隔診療解禁の通達

    厚生労働省から、遠隔診療に対する通達がありました。1997年の遠隔診療について示された条件はあくまでも例示に過ぎず、それ以外の条件の患者に対しても医師の判断のもと、遠隔診療を行っても問題ないという事実上の遠隔診療解禁通知が通達されました。まだまだ規制があり、一般の患者さんが気軽に使えるものではありませんでしたが、これにより遠隔診療への議論が活発化しました。しかしながら、この段階においても、ガイドラインや診療報酬上の評価はなかったため、オンライン診療の普及にはなりませんでした。

  • 2018年3月
    遠隔診療からオンライン診療へ診療報酬上で初めての評価

    「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が発出されました。

    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000201789.pdf

    厚生労働省

     翌月の診療報酬改定のタイミングで、遠隔診療は「オンライン診療」と名を変え、保険診療でも正式に行えるようになりました。しかし、保険診療で認められるオンライン診療にはさまざまな規制があり完全解禁とは言えない状態でした。たとえばオンライン診療を適用してよい病気が限られていたり、概ね30分以内に来院できる人が対象などです。中でも利用を妨げた大きな制限は「オンライン診療を初回から実施してはならない」というものでした。当初の離島、僻地の医療サービスにアクセス困難な人たちへの医療提供の理想には逆効果となりました。

  • 2020年4月
    新型コロナウイルス感染症の拡大によるデジタル活用の高まり

    診療報酬改定において、オンライン診療料は点数こそ据え置かれたものの、対象疾患の拡大やオンライン診療を開始できるまでの期間が短縮されるなど、若干の要件緩和が実施されました。

    <緩和された主な要件>

    ・オンライン診療を開始するまでの事前の対面診療の期間が「該当管理料等を初めて算定した月から6ヶ月」から3ヶ月に短縮
    ・オンライン診療料の対象疾患に、定期的に通院が必要な慢性頭痛患者を追加
    「緊急時に概ね30分以内に診察可能な体制」の削除

    令和2年度診療報酬改定の概要(外来医療・かかりつけ機能)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000605491.pdf
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000691038.pdf

    厚生労働省保険局医療課

     新型コロナウイルス感染症の拡大が世界的な問題となりました。インターネットの回線帯域はギガを超えるようになり、値段も安くなってきました。モバイル通信は5Gにより、動画などの通信も問題なくできるレベルになっています。2020年のインターネット利用率は83.4%で、スマートフォンによるインターネット利用率は68.3%となり、国民のほとんどの人がインターネットにつながり、一人一人が持っているスマートフォンでアクセスできる世の中になりました。

    総務省デジタル活用白書:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd111100.html

    総務省

     ITおよびデジタル環境が整ったことと、コロナウィルスの感染拡大防止のための三密(密閉・密集・密接)を避けるコミュニケーションを行うことにつながるため、一気にオンラインでのコミュニケーションが一般化しました。これにより、オンライン診療についての風向きは一気に変わることとなります。

  • 2020年4月
    診療報酬改定による要件緩和

    2020年度診療報酬改定において、オンライン診療料は点数こそ据え置かれたものの、対象疾患の拡大やオンライン診療を開始できるまでの期間が短縮されるなど、若干の要件緩和が実施されました。

    <緩和された主な要件> 
    ・オンライン診療を開始するまでの事前の対面診療の期間が「該当管理料等を初めて算定した月から6ヶ月」から3ヶ月に短縮
    
    ・オンライン診療料の対象疾患に、定期的に通院が必要な慢性頭痛患者を追加「緊急時に概ね30分以内に診察可能な体制」の削除

    令和2年度診療報酬改定の概要(外来医療・かかりつけ機能)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000605491.pdf

    厚生労働省保険局医療課
  • 2020年4月10日
    コロナ禍における時限的・特例的な取扱いによるさらなる要件緩和


    コロナウイルスの感染拡大が収まるまでの時限措置として認められた臨時の特別ルールとして、厚生労働省より、それまでの保険診療でのオンライン診療を大きく変えるルール改正がなされました。俗に「0410対応」と言われました。


    ①医師が認めればどんな状態に対してオンライン診療を行うことができる
    ②初診からオンライン診療を行ってもよい


    コロナウイルスの収束が長引く状況を受けてこの時限措置の適用が長期化しました。しかしまだ、完全に普及するには、診療報酬が外来診療と比べて非常に低い点やオンライン診療の医療水準を担保するガイドラインの整備、使いやすいオンライン診療アプリや決済方法、お薬の投薬や配達、服薬指導に課題は残っています。

    新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その14)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000625141.pdf

    厚生労働省
  • 2022年4月
    初診からのオンライン診療を恒久的に認める

    新型コロナウイルス感染症の流行収束が見えないなか、政府は2021年の規制改革実施計画で、初診からのオンライン診療を2022年度から恒久的に認めることを盛り込みました。


    これを受け、2022年1月、厚生労働省は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を改定し、2022年度診療報酬改定では、今までのオンライン診療料が廃止され、「情報通信機器を用いた場合の初・再診料」として再編されました。算定できる医学管理料も14種類追加され、オンライン診療にかかる診療点数も、対面診療の点数に大きく近づきました。

    令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項Ⅱ(情報通信機器を用いた診療)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000911810.pdf

    厚生労働省

  • 2023年5月
    情報通信機器を用いた診療に関する議論

    より質の高いオンライン診療を目指すため、利用状況や事例研究から活発な意見交換がなされ、2024診療報酬改定に向けて改善策の検討が行われています。

    オンライン診療でのエビデンスにより、医療への有用性が評価されてきています。また、僻地医療における、患者が看護師等といる場合のオンライン診療(以下「D to P with N」といい情報通信機器の操作サポートや医療補助を看護師が担うことでより円滑な医療サービスを提供できる。)や希少性の高い疾患等、専門性の観点から近隣の医療機関では診断が困難な疾患に対して、かかりつけ医のもとで、事前の十分な情報共有の上で遠隔地の医師が情報通信機器を用いた診療を行う「D to P with D」なども検討され、高度な医療サービスを利便性良く提供できるようになる検討がなされています。

    情報通信機器を用いた診療に係る中医協総会等の意見等

    https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001165066.pdf

    厚生労働省
  • 2024年4月
    6月から施行となるオンライン診療に係る診療報酬改定内容
    ・僻地診療所等が提供するD to P With Nの推進
    ・難病患者の治療に係る遠隔連携診療料の見直し
    ・情報通信機器を用いた在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料に係る評価の新設
    ・情報通信機器を用いた通院精神療法に係る評価の新設
    ・情報通信機器を用いた歯科診療に係る評価の新設
    ・歯科連携診療料の新設

    オンライン診療の活用範囲は急速に広がってきており、医療サービスに容易にアクセスできる環境が構築されてきています。また、場所と時間の制限がなくなることにより、医療従事者側の負担も軽減されより多くの患者を診ることが可能になりつつあります。

    令和6年診療報酬改定について

    令和6年度診療報酬改定について

    個別改定項目

    https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220531.pdf

    厚生労働省